エデンの園でアダムとイヴが食べたといわれる“禁断の果実”。アイザック・ニュートンが万有引力の法則に気づくきっかけになり、白雪姫が継母にだまされて食べてしまった果物といえば……。誰もが知っているおなじみの、りんごです。数ある果物のなかでも、伝説や物語の中にこれほど多く登場する果物はないでしょう。

秋が旬といわれますが、年間を通して楽しませてくれる、果物のひとつ。パリの冬の朝市にも、みかんや柿などとともに、何種類ものりんごがずらりと並んでいます。

フランスでもっとも生産量が多い品種は、黄色いゴールデンデリシャス。淡い赤の色をもつガラ、緑色を帯びたグラニースミスと続き、ピンクレディー、エルスター、レネットといった品種もよく見かけます。日本原産の富士も、そのままFujiと呼ばれて栽培され、売られています。栽培地はノルマンディーが有名です。
バラエティーの広さは、調理法の幅広さにもつながります。もちろん生でよし、焼いても、煮ても、お菓子にも料理にもよしと、万能の果物。シードルやカルバドスといったお酒にも変身します。
りんごをパイ生地にはさんだ「ショソン・オ・ポムChausson aux pommes」は、パン屋さんの定番商品。キャラメリゼしたりんごにパイ生地をのせて焼き、ひっくり返して提供する「タルト・タタンTarte Tatin」、カルバドスや生クリームのアパレイユを流し込んで焼いたノルマンディー風「タルト・ノルマンドTarte Normande」、バターでソテーしたりんごをのせたシンプルなタルトなど、りんごのタルトといえども、多種多様です。このように調理にりんごを使うときには、マルシェ(市場)の八百屋さんに行ってアドバイスを求めれば、お店の人が最適なりんごを選んでくれます。


りんごのお酒の代表は、シードル。このクレープリーで定番の飲み物、多くは湯飲み茶碗のような、陶製のボウルで提供されます。最近では、ワインと同じようにシードルを味や香りで分類して、料理にあったシードルを選んでくれるお店もでてきました。ちなみに、シードルにはアルコールに適したりんごが使われていて、生食用とはまったく違う品種です。
このようにりんごは、交配や品種改良を重ねて、さまざまな風味と色を持つ品種が作られてきました。世界中には2万もの品種が存在するといわれています。これらのりんごの原種はMalus Sieversiiという名前で、中央アジアのカザフスタンの山に、6500万年前に誕生。いまも、マイナス40度から夏の40度までの温度差のある山中で自生していますが、70%がすでに消滅し、危機に瀕しているそうです。

現在、パリ東部のベルシー公園内で「りんごの起源」展が開かれていて、野生の原種を写真で見ることができます。小さな展覧会ですが、期間中にパリにいらっしゃる方は、ぜひ足を運んでみてください。過酷な自然環境の中でも、殺虫剤や化学肥料とは無縁に生き続けているりんごから、現代の私たちも何かを学べそうな気がします。
「りんごの起源」展 L’Origine de la Pomme
Parc de Bercy (rue Paul Belmondo), 75012 Paris
2012年3月5日まで
〈文・三富千秋/フランス パリ在住 2012年1月〉

