トップへ戻る

Lettre de Paris

「パリからの手紙」では、さまざまな角度からパリ「衣・食・住」情報を毎月お届けする予定です。

旬の味 牡蠣

殻を開いて、召し上がれ!

フランスの冬の旬といえば、なんと言っても、牡蠣huîtres(ユイットル)。パリではいま、魚屋はもちろん、市場、そしてレストランやカフェの軒先でも、牡蠣が販売されています。そして、牡蠣がもっとも消費されるのは12月24日のクリスマスイブ。その日の市場や魚屋は、夕方になると、注文しておいた牡蠣や魚介類の盛りあわせを引き取りにやってくる客でごった返します。

日本では、フライにしたり鍋に入れたり、調理して食べる機会が多い牡蠣ですが、フランスでは、生で食べることがほとんど。基本的に生食文化のないフランスで、牡蠣だけは特別な存在といえそうです。殻ごとグラタンにするなど、調理することもありますが、きわめて少数派。牡蠣の養殖業者に教えてもらった調理法は、牡蠣にカットしたフォアグラをのせて、殻ごと軽くオーブンで焼くというもの。濃厚な風味が重なります!

レストランでは、牡蠣は前菜として提供されます。牡蠣の値段は1ダース単位なので、一皿は6個または12個がふつう。日本人の感覚からすると、前菜なら6個が適度かと思いますが、フランス人なら一人12個くらいはペロリと食べてしまうはず。牡蠣の風味がしっかり感じられるよう、私はそのままで食べますが、レモンや、エシャロットを加えたワインビネガーが必ず添えられます。潮の香りと白ワインともに、濃厚な身をつるりと口の中へ! 殻がどんどん山積みになって、食べた数がわかってしまうので、たくさん食べると恥ずかしいのですが、ついつい止まらなくなります。

このように、生で食べる機会がほとんどなので、魚屋や市場で売っている牡蠣は、決まって殻が付いたまま。日本のように殻をむいた牡蠣のパックは、見たことがありません。たいてのフランス人は、牡蠣専用のナイフを持っていて、自宅で殻を開くのです。まず貝柱をめざして、殻の隙間にナイフをさしこんで、少しずつナイフを動かしながら、殻を外します。と、言うのは簡単ですが、なかなか自分で開ける勇気がない人も多いはず……。私もその一人で、手数料は取られますが、お店や市場ではお願いして殻を開けてもらっています。

レストランやカフェの前では、担当者が、注文に応じて手際よく殻を開けています。フランスらしいのは、牡蠣の殻を開ける人たちは“エカイエécailler”と呼ばれ、ひとつの職業として認知されていること。エカイエによる殻むきコンクールも開かれているほどです。それにしても寒さの中、しかも屋外で殻を開くのは大変な仕事です。エカイエにも感謝しながら、牡蠣をいただきたいものです。

さて、牡蠣と一言で言っても、選び方は意外と複雑です。というのは、日本の牡蠣ももちろん同じですが、産地、大きさ、牡蠣の種類、生産者など、さまざまな選ぶ基準があって、しかも同じメニューに数種類も載っているからです。もちろん、価格の差もあります。形の違いで分類すると、細長くてでこぼこした、日本のマガキと同じhuîtres creuse ユイットル・クルーズと、平たくて丸いhuîtres plate ユイットル・プラットに分かれています。後者はフランス原産で、Belonブロンとも呼ばれ、いまでは数が少ない貴重な牡蠣です。また、養殖場で1年間育てたFine de Claireフィーヌ・ドゥ・クレール、養殖場で3年間育てたSpécial スペシャルなど、養殖の方法による呼び方もあります。

フランスの主な牡蠣の養殖地は、ブルターニュ地方のカンカルCancaleやポワトゥー・シャラント地方のマレーヌ・オレロンMarennes Oléron、ボルドーに近いアルカション湾Bassin d’Arcachon などが有名です。近年、フランス料理の世界では、ハムやソーセージといったシャルキュトリー(豚肉加工品)や野菜などの生産者の名前が、メニューに載るようになしましたが、牡蠣も同様です。ノルマンディーのユタビーチの「イヴォン・マデック」、マレーヌの「ジラルドー」などは、牡蠣の高級ブランドで、価格も高めです。

牡蠣の生産者にうかがったところ、海にも“区画”があって、同じ湾の中でも、波の大きさや強さが違うため、稚貝の段階から販売する段階まで、育てている牡蠣にあわせて場所を替えていくそう。また、1平方メートルあたりに育てる牡蠣を少なくすることで、より質の高い牡蠣に育つとのこと。大切に、手間をかけて育てたものほど、貴重な牡蠣になるのは、当然の結果ともいえます。

ところで、フランスでは1970年代、病気によって牡蠣が壊滅的な被害を受けました。そのとき、日本から牡蠣の稚貝が贈られて危機を救ったことは、よく知られています。そして、今年3月の東日本大震災を受けて、フランスの牡蠣関係者から、日本への支援が行われています。支援キャンペーンは“France o-kaeshiフランス・おかえし”と呼ばれているそう。あたたかい絆は、世代を超えて続いていくものですね。

〈文・三富千秋/フランス パリ在住  2011年12月 〉

ARCHIVES (パリ情報)
  • 牛乳
  • 川
  • 砂糖
  • 店
  • 坂道
  • 季節
  • パン
  • 椅子
  • 演劇
  • 貝
  • ワイン
  • サーカス
  • 菜園
  • 王
  • 教会
  • 市場
  • 家
  • 雨
  • 夏の野菜
  • 魅惑の蒸留酒
  • パリのハム
  • 種子のちから
  • 食クリエーションのラボ
  • 旬の味 牡蠣
  • 禁断と呼ばれた果物-りんご
  • 食のイベント「パリ・デ・シェフ」
ARCHIVES (パリラボ通信)
  • ベルギー視察旅行
  • パリのベスト「パリ・ブレスト」!
  • パティシエのサンドウィッチ
  • カフェ・スイーツ新連載
  • そば粉のクレープ
  • 夏のデザート
  • パリ・ブランシェ
  • 夏のバカンス
  • 味わい深いスペキュロス
  • ウィーン視察旅行
  • ボンヌ・フェット!
  • 王たちの焼き菓子
  • ザッハトルテ
  • パリのベスト・フィナンシェ
  • タルトに夢中!
  • 春のデザート
  • ジョワィユーズ・パック!
  • 2011年夏のデザート
  • 夏のタルト
  • 秋のデザート
  • 秋のデザートその2
  • クリスマスケーキ
  • クリスマスデザート
  • 甘い料理
  • フィナンシェ
SPECIAL (特別編)
  • フェルデールのレシピ
このページの先頭へ