日本では、数年前から雑穀ご飯が話題になっているようですが、フランスでも、雑穀は注目の食物です。なかでも人気が高いのは、キノアquinoa。ビオ(オーガニック)製品のお店を中心に、あちこちで見かけるようになりました。小さなぷちぷちとした粒の食感が心地よくて、私自身も大好きな食べものです。

キノアは、ペルーやボリビアを中心とする南アメリカのアンデス山系で栽培されていて、ホウレンソウと同じ仲間に属する植物。種子の部分が食用になります。栽培の歴史は、5000年前にもさかのぼるといわれ、インカ帝国の時代には、ジャガイモやトウモロコシと並んで、アンデス高地に住む人々の重要な食糧でした。厳密にいえば穀物ではなく、ソバなどと同様、「擬穀類」と分類されるそうです。しかし、南アメリカでは“インカの米”、“穀物の母”といった別名で呼ばれてきました。
ヨーロッパで注目が集まった理由は、なにより栄養価の高さ。たんぱく質やビタミン、カルシウム、食物繊維が豊富で、カロリーも低め。フランスでは、オーガニック食品の専門店や、スーパーマーケットのオーガニック・コーナーで、キノアの種子が販売されています。産地はボリビアがほとんど。袋や箱入りで売られているほか、量り売りをしている店もあります。

一般的な調理方法は、ゆでたキノアに好みの野菜を混ぜて、ドレッシングであえたサラダ。パリ市内のオーガニックのレストランや、テイクアウトもできるサラダ専門店では、さまざまなキノア・サラダが見つかります。たとえば、豆腐とわかめを加えた“キノア・ジャポネ”(=和風キノア)という名のサラダや、ブルーチーズとドライレーズンを入れた濃厚な味わいのサラダなどなど…。サラダの他には、ドレッシングとバジルの葉でシンプルにあえて、料理の付けあわせにしたり、にんにく風味のクリームチーズとあえて、丸めて前菜として提供したり、クリーム状にしてコロッケにしたり、さらにキノアの粉で作ったパンもあります。

このように、味や香りもニュートラルなキノアは、多彩な食材との組み合わせや調理法が可能です。こんな点も、フランスで愛用者が増える理由のひとつかもしれません。
またキノアは、栽培地や栽培者の利益も守ることを趣旨とする“フェアトレード”製品のひとつとして、フランスでは流通しています。一方、ヨーロッパだけでなく、世界中での消費量が増え続けるなかで、南アメリカでのキノアの価格が上昇し、現地の人々が買いにくい状況になっているとの報道もありました。

そんなキノアをめぐる世界的な動きのなか、フランスではキノアを栽培しようという動きが、活発になってきています。先駆者は、ロワール川が流れるヴァル・ドゥ・ロワール地方の人々で、2008年から試験的に栽培をスタート。2010年の栽培面積は、2009年から倍増して200ヘクタールに。“フランス産キノア”が次第に、店頭に並び始めています。

16 世紀、インカ帝国はスペイン人に征服されましたが、当時スペイン人は、キノアにはまったく興味を示さなかったそうです。グルテンを含まないのでパンにしづらかったことなどが、その要因だったとか。21世紀になって、ヨーロッパの人々がこれほどまでにキノアに注目するようになるとは、おもしろいものですね。
〈文・三富千秋/フランス パリ在住 2011年10月 〉

