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Lettre de Paris

「パリからの手紙」では、さまざまな角度からパリ「衣・食・住」情報を毎月お届けする予定です。

パリのハム

真なるパリの味を求めて

ジャンボン・ドゥ・パリJambon de Paris、つまり“パリのハム”をご存知でしょうか? シャルキュトリー(豚肉加工品)のひとつで、フランスの各地方のハムや、イタリアのパルマやスペインのセラノといった多種多彩なハムとともに、肉屋さんや食材店に並んでいます。肉を乾燥させたり燻製したりして作るハムと違って、加熱しているハムの総称です。ジャンボン・キュイJambon cuit=加熱ハムと書いてある場合もあります。

どうして「パリ」と呼ばれているのか、前から気になっていました。さらに、食材店で“ Véritable Jambon de Paris =本物のジャンボン・ドゥ・パリ” という表記も発見。では、何が本物なのか?…このハムを作っているのが、ドゥンベア-ソジャダム社 Doumbea-Sojadamと聞き、訪ねてみました。

同社は、パリ東部に位置する11区のシャロンヌ通りにあります。まず、いまもパリ市内で作られているということに、驚かされました。本社の住所がパリにある食品会社でも、場所の確保などを考えて、生産拠点はパリ郊外や地方にあることがほとんどだからです。社長のイヴ・ル・ゲルさんによると、「ジャンボン・ドゥ・パリはパリで生まれたレシピ。ですから、真なるジャンボン・ドゥ・パリと呼べるには、2つの条件が必要です。パリで作られていること、そして昔ながらのレシピで作っていること」。同社の製品が、“最後のジャンボン・ドゥ・パリ”ともいわれているのは、パリで作っている会社が皆無に近い、ということの表れでもあるでしょう。

先に書いたように、ジャンボン・ドゥ・パリは、加熱ハムです。ハム自体の起源ははっきり分かっていないようですが、13世紀頃には、ヨーロッパ全域で乾燥や燻製といったシンプルな方法でハムが作られていました。ところがパリの人々は、なぜか次第に肉を加熱するようになったとか。14世紀の書籍にはすでにジャンボン・ドゥ・パリのレシピが残っているそうです。

ドゥンベア-ソジャダム社のハムは、まず、ランジス卸売市場からフランス産の豚肉を買い付け、骨を外します。骨の周囲にナイフを入れて、ぐるりと回しながら、一つ一つ骨を抜き出していきます。塩漬けは、一種の針が付いた何本もの細いポンプを肉にさして、血液のなかに塩漬け用の液を注入。これはポンプ式と呼ばれる方法で、機械は使っているものの、昔ながらの塩漬けの方法だそう。塩漬け用の液は、肉汁や野菜などを混ぜたもの。

形を調えたら、網に包んで、さらにもう一枚の布でくるんだ後、真空状態に。その後、蒸気で8時間から10時間加熱したら、さらに1週間ねかせておきます。真空包装を外して、パッケージをしなおして、卸売先に配送します。保存料や調味料などの添加物は一切なし。色は赤みを帯びたピンク色をしていて、やわらかいのと同時に、肉の歯ごたえも残った、かむたびにじわっと肉の味が広がるハムになります。

工場生産のハムは、大量の肉をまとめて味付けし、ハムにしていくそうですが、ここでは、肉のカットから梱包まで、ひとつのハムごとに、作業が行われます。5人のスタッフの手で、週に250から300個を生産しているとのこと。「ゆっくり熱を入れて、加熱後もしばらくねかしておくことで、塩漬け用液が肉の中にしみこんでいくんですよ。時間はかかりますし、コストもかかりますが、なにより質が第一。これからもパリの味を守っていきたいですね」とル・ゲルさん。骨付きのジャンボン・ア・ロスJambon à l’os、すね肉のジャンボノーJambonneauなど、複数のジャンボン・ドゥ・パリを作っていますが、なかでも、ブルターニュ地方ゲランド産の塩を使った「ル・プランス・ドゥ・パリLe Prince de Paris」が看板商品。パリ市内外の食肉店のほか、「ル・ムーリス」「ルドワイヤン」「フォション」など、パリの3つ星レストランや高級食材店からも、注文を受けています。

ジャンボンにちなむパリの味といえば、加熱ハムとバターをバゲットにはさんだサンドイッチ「ジャンボン・ブールJambon-Beurre」も忘れてはなりません。もともと、すばやく食事ができるようにと、パリのカフェで提供され始めた伝統的なサンドイッチで、パリジャンParisienと呼ばれることもあるようです。複数の雑誌の記事によると、ジャンボン・ブールは、いまも「フランスでもっとも売れている食事」なのだそうですが、おいしいジャンボン・ブールに出会う確率は、残念ながらあまり多くありません……。シンプルな組み合わせだからこそ、素材の良さが決め手。ぱりっとしたバゲットに、濃厚なバターを少し厚めにぬって、本物のジャンボン・ドゥ・パリをはさんだ“真なるジャンボン・ブールvrai Jambon Beurre”に出会った時の喜びは、ひときわです。

パリにいらしたときは、素朴かつ味わい深い、パリの伝統の味を、みなさんも再発見してみてください。

〈文・三富千秋/フランス パリ在住  2011年9月 〉

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