日本は梅雨の季節ですね。フランスには梅雨は存在しないうえ、1日中、しとしとと雨が降り続ける日もあまりありません。ですから、傘をもたない、また多少の雨が降っても傘をささないフランス人が目だちます。
しかし意外にも、傘に愛着を抱いているフランス人は少なくないようです。その証拠といえるのが、パリ3区のランクル横町passage de l'Ancreにあるpep’sペプス。「現存するパリ最後の傘修理店」とさえ言われていて、年間8000本から1万本もの傘を修理しています。

ご主人のティエリー・ミレさんは9年前に、1960年代から修理店を営んでいた職人の店を継承。現在、午前中は2階の工房で修理を行い、午後は1階の店でお客さんを迎える毎日です。

工房には、傘の柄や骨といった部品が所狭しと箱に収められています。傘の種類にもよりますが、修理費は1本につき10~15ユーロで、傘の値段を超えないことが原則です。また修理以外にも、最近にわかに注目されているのが、傘のリサイクル。修理ができない傘や、捨てる前に持ち込まれた傘から使用可能な部品を回収して、再利用しているのです。

お客さんの大半は、「祖父母や家族からの贈り物だから」と、修理を依頼してくる人たち。「大切に使い続けられている傘に、新たな命を吹き込んであげられることが、この仕事の最大の喜び」とミレさんは話します。ナポレオン三世時代の貴重な傘や、アメリカ人の有名俳優が持参した傘を修理したこともあったとか。

傘がフランスに伝わったのは遠く16世紀のこと。当時、傘はぜいたく品であり、優雅な女性のファッションに欠かすことのできないアクセサリーでもありました。「いまでもエレガントな女性や男性は、必ず素敵な傘を持っていますよ」とミレさん。「使い捨てでじゅうぶん」などと言わずに、傘の存在をあらためて見直してみたいものですね。
〈文・三富千秋/フランス パリ在住〉

