12月に入って、パリの街はクリスマス・ムード一色。きらめくイルミネーションを見ていると、冷たい空気も忘れて、散歩に出かけたくなるものです。こうしたクリスマスのイベントのほかにも、寒い冬を楽しく盛り上げてくれるものがあります。それは、サーカス。フランスでは、冬はサーカスの季節でもあるのです。
はらはらドキドキの綱渡り、スリル満点の猛獣使い、おどけたピエロが登場するサーカスは、フランスではcirqueシルクと呼び、洋の東西を問わず、やはり子供たちに人気があります。もっとも有名な劇場は、11区にある「シルク・ディヴェールCirque d’hiver」。「冬のサーカス」という名前の通り、10月末から2月末までの冬の間、サーカスを上演しています。1852年、“シルク・ナポレオン”という名前で開館し、1870年に現在の名前に改名。1934年から、サーカス一家のブーグリオーヌ家が所有者となり、公演を行っています。内部にはミュージアムもあります。
かつてパリには、シルク・デテCirque d'été、つまり「夏のサーカス」という名の劇場も、シャンゼリゼ大通りのすぐ近くに存在していました。1889年のパリ万博以降、観客が減ったことから、1900年に閉館・解体されたとのこと。劇場があった通りは現在、シルク通りrue du Cirque と名づけられています。

一方で、こうした伝統的なサーカスのイメージを覆す、新しいスタイルのサーカスも、フランスにはたくさん存在しています。空中芸やアクロバット、マジックといった伝統芸に、ダンスや演劇、音楽を取り入れたスペクタクルのことです。人馬一体となった独自の芸風の「ジンガロZingaro」は、日本でもしばしば公演しているので、ご存知の方もいるでしょう。国立サーカス団の「シルク・ダレクシス・グリュスCirque Alexis Gruss」は、馬術を取り入れた美しいサーカス芸術。2011年2月27日まで、ブーローニュの森の中の特設会場で新作「メロディー」を上演中です。またフランスではありませんが、カナダの「シルク・デュ・ソレイユCirque du Soleil」は、衣装や装飾の美しさも含めたエンターテイメントとして、世界中で大成功を収めています。

さらに新しいサーカス芸術を代表する劇団のひとつが、1973年に設立された「シルク・バロックCirque Baroque」。昨年10月には、パリ東部にあるヴァンセンヌの森に1カ月間、サーカス村を設置して、公演を行っていました。上演されたのは、ブレヒトの『三文オペラ』の原作となった『ベガース・オペラ』からインスピレーションを受けたという作品で、3つの物語が、セリフではなく、身振りやダンス、そしてアクロバットによって表現されていました。アクロバットは、鍛え上げられた体を披露するだけでなく、喜びや勝利、怒りといった感情の表現のために取り入れられていて、これこそがシルク・バロックの特徴となっています。子供の観客もいましたが、セクシーなダンスも盛り込まれているので、どちらかというと、やはり大人向けのスペクタクルといえるでしょう。

こうした新サーカス=シルク・ヌーヴォーの台頭は、80年代から、フランスが国策としてサーカスや大道芸のアーティスト育成に力を入れてきた結果といわれています。パリ郊外には国立のサーカス学校もあり、国内には200を超えるサーカス団が存在するそう。伝統であれ、ヌーヴォーであれ、言葉は関係なく理解しあえるのがサーカスのよいところ。機会があれば、ぜひフランスでサーカスをご覧になってください。
〈文・三富千秋/フランス パリ在住〉

