秋深まるパリ。
と書き始めれば、風景は美しく食べものも美味しく、さぞ良い季節だろうと思われるかもしれませんが、パリの秋というのは、実はあまり歓迎できる季節ではありません。まず10月になれば朝夕は10℃を切り、暖房が必要なほど気温が下がります。私の借りているアパルトマンはセントラルヒーティングなんですが、実際に毎年10月中旬から暖房が入ります。それから雨。来る日も来る日もしとしとと、これは梅雨ってヤツですか・・・?というほど降ります。どんより灰色の空の毎日が続き、ああ長くて厳しい冬がやってくる・・・と気が滅入るのです。まあしかし、秋には秋ならではのパリ、というものもある訳で、例えばコレクションやいろいろなサロンが開催され、仕事では刺激の多い時期であることも確かです。食品関連の展示会も多く、代表的なのが「Salon du chocolat サロン・ド・ショコラ」。日本でもおなじみになりましたが、本家のパリでは毎年10月末に開催されます。
さて話題をチョコレートでつなげます。ラボでは冬に向けてチョコレートケーキの開発予定があり、いろいろと調べておきたいことが思い浮かび、その取材と研究のため、先日ラボのスタッフでウィーンを視察してきました。「パリからの手紙」なのにパリ以外の話題が多いような気もしますが、(日本のスタッフに怒られそうです…)今回はウィーンで見たお菓子の話を。
ウィーンは、陽の沈まぬ帝国ハプスブルグの都。約640年に及ぶハプスブルグ家の統治が、ウィーンに華麗な宮廷文化をはぐくみました。歴代の皇帝の庇護のもと、モーツァルトをはじめ多くの音楽家が活躍した「音楽の都」としての顔はあまりに有名ですが、同じことがお菓子の世界にもあるようです。何でもハプスブルグ家の方たちは甘いものが好きだったと言われており、職人たちを競わせた結果、ウィーンは「お菓子の都」としても花開いたとのこと。確かに伝統的なカフェ文化とともに、ウィーン菓子には他のヨーロッパ地域にない独自の世界がありました。


ウィーン菓子とフランス菓子との大きな違いは、まず、直径20~24cmくらいの大きなトルテ型に仕込んで、カットして提供するものが多いこと。フランス菓子がセルクルなどを使って1個ずつ仕上げるのとは対照的です。次に、様々なパーツを組み合わせて複雑な味の構成にすることが多いパリの菓子に対し、スポンジ生地とクリームを重ねたシンプルな組み立てのケーキが多いことも特徴。スポンジもフランス菓子のように目の粗いものではなく、キメの細かないわゆる日本人好みのタイプのものが主流です。それから、チョコレートを使ったケーキが多いのですが、ビターチョコレートの割合が少なく、それがフランスのチョコレートケーキとの決定的な味の違いのように感じました。また材料となるチョコレートの味わいの違いからか、ウィーン菓子でチョコレートに合わせるのは主にナッツ類で、オレンジやベリーなど酸味を合わせることが多いフランスとの味覚の違いも同時に感じました。

そのような伝統的ウィーン菓子とともに、いくつかのカフェではパリの有名店のケーキと瓜二つのものがつくられていたり、パリで流行っているマカロンやカップケーキを並べていたりするのを見かけました。ウィーンでも現代フランス菓子の影響は避けられないようで、お菓子の世界ではやはりパリが中心なんだということを逆に感じてしまいました。
ウィーンから帰って、シェフフェルデールにこのような話をすると興味津々。「Felderという名字はオーストリアに起源があるんだよ」と親オーストリア家(?)のところを見せ、ウィーン菓子をつくってみる気になったようで、私たちの買ってきたウィーン菓子の本を見て試作を始めました。(アルザス出身のシェフフェルデールはドイツ語が読めるのです。)そればかりか翌週の週末、私の携帯に届いたメールにはウィーンの老舗レストランで特大のウィンナシュニッツェル(仔牛のカツレツ)を楽しむシェフフェルデールの姿が・・・。ウィーン視察に行ったんですね。その情熱と行動力に脱帽です。

(2010年10月)

