パリは本格的バカンスシーズンの只中です。パリラボの前のマダム通りは人も車もまばらになり、近所のカフェやパン屋は軒並みお休み、住人のみなさんはどこかへお出かけの様子。静かで休み独特のゆるやかな空気が流れ出した・・・と思ったのもつかの間、パリでは人の少なくなったこの時期を見計らって、あちこちで道路や電気ガスなど都市インフラの工事や、店や住宅の改装が始まります。ラボのあるアパートではガス工事を、向かいのお部屋はリフォームを始め、目の前の歩道も何やら掘り返され出し、連日そのけたたましい騒音の中で商品開発をしています。ああ、これでは仕事に集中できない、フランス人がうらやましい、自分もどこか南の方に行きたい・・・と現実逃避したくなるのですが、実はラボのスタッフ達も(ほんのちょっぴり)フランス風に、毎年1週間の夏期休暇をとらせてもらっています。
スタッフ全員、毎年この夏のバカンスを楽しみにしています。みな、日本へ帰省・・・することなど考えもせず、フランスの地方やヨーロッパ各地への旅行を計画します。今年、シェフフェルデールはスタッフよりひと足早く8月初めからバカンスに。南仏プロヴァンス地方でゆっくり家族と過ごすということでした。パティシエ達はめいめいイタリアやスペイン、赴任前から憧れていたヴェネチアやバルセロナへ。やはり夏は南欧の方に人気があります。
私は同じ南でもバスク地方へ。フランス南西部とスペイン北東部にまたがるバスク地方は、日本での知名度はいまひとつですが、大西洋岸のビスケー湾に面したビアリッツやサン・セバスチャンなど、ヨーロッパでは避暑地として人気があります。独自の文化と言語を持ち(タイトルの«Euskal Herria»とはバスク語で『バスク地方』のことなんです)、何より魅力的なのは美味しい食材が豊富で、独自の食文化が発展していること。今回はそれを少し紹介します。

まずお菓子屋としては、この地方がスペインからフランスにチョコレートが伝わった玄関口ということに興味を惹かれます。生ハムで有名なバイヨンヌという街がありますが、こちらはチョコレートの街としても知られており、旧市街にはショコラティエがパリ以上の密度でひしめきあっています。それから次に、この地方独特のお菓子にも興味をかきたてられます。チョコレートケーキの「ベレ・バスク」、マジパンのような「トゥーロン」、バスク風の「マカロン」・・・特に印象的だったのは「ガトー・バスク」。これは厚めのクッキー生地にクリームやジャムが詰められたお菓子で、同じ大西洋岸のブルターニュ地方にある「ガトー・ブルトン」とレシピはほとんど同じものなんですが、ブルターニュではキャラメルやりんごのコンポートが詰められていたのに対し、バスクではチェリージャムと、その地方の特産品が使われていて、それぞれ独自の進化をしているのが面白く感じました。

料理では、先ほどのバイヨンヌの生ハムやエスペレット村の唐辛子など質の高い食材がふんだんにあり、それを背景にして、ピペラード(パプリカとトマト、玉ねぎ、にんにくの煮込み)や鶏のバスク風、アショア(仔牛ひき肉の煮込み)など、個性豊かな郷土料理が数多くあります。また、スペイン・バスクのサン・セバスチャンはピンチョスの街としても有名です。ピンチョスはスペイン特有のタパ(前菜)の一種で、おつまみのようなオープンサンド風のフィンガー・フード。夕方になると「チキテオ」といってバルからバルへはしごをし、このピンチョスを楽しむのがスペインの習慣だとか。このバル巡り、かなり楽しく、一度体験すると確実にはまります。このチキテオのために日帰り弾丸ツアーでもいいからと、サン・セバスチャン再訪を固く決意したほどです。


今回はパリラボで開発した商品の話はありませんでしたが、まあそれも含めてバカンスの話題ということで失礼します・・・。
(2010年8月)

